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東京高等裁判所 昭和45年(う)2308号 判決

被告人 川崎東一郎

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

押収中の盆布一枚(原審昭和四五年押第三号の一)、毛布二枚(同号の二及び三)、花札二八八枚(同号の四及び五)、花札空箱三個(同号の六)、畳鋲三八本(同号の一四)、パン券(替銭札)五九個(同号の一五)、札うけ一個(同号の一六)及び現金一八万五、〇〇〇円(同号の一九)は、これを没収する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人浜名儀一提出の控訴趣意書に記載するとおりであるから、ここに、これを引用するが、その要旨は原判決の量刑は重きに過ぎ不当である、というのである。

職権を以つて調査してみると、原判決は押収してある現金五八万二、〇〇〇円(原審昭和四五年押第三号の二〇)のうち金一三万円を没収しているのであるが、その理由として原判決の説示するところは、右現金五八万二、〇〇〇円(千円紙幣五八二枚)は、被告人が原判示開張中の賭場において押収されたいわゆる場銭であるが、右金員のうち一三万円(千円紙幣一三〇枚)は、被告人が賭客に対する両替及び資金貸付のため用意したいわゆる回銭七五万円の一部であることが証拠上認められるところ、その一三万円が前記五八万二、〇〇〇円の紙幣のうちどれであるかは特定できないが、通貨は高度の代替性を有するものであるから、開張中の賭場において場銭として押収され、かつ、それが全部同一種類の通貨であり、証拠上その場銭中に回銭が混在し、金額が明らかである本件の如き場合には、個々の通貨が特定(原判決に指定とあるは特定の誤記と認める)できなくても没収できるものと解すべきである、というのである。なるほど、記録によれば、押収してある原判示現金五八万二、〇〇〇円は、被告人が開張した原判示の賭場において押収されたいわゆる場銭であり、右金員のうち一三万円(千円紙幣一三〇枚)は、被告人がその開張した賭博に際し、賭客に対する両替及び貸付のために用意したいわゆる回銭七五万円の一部であることが認められるのであつて、その性質として被告人が本件犯行の用に供しようとしたものであるということができる。然しながら、右一三万円は、原判決もいうように、前記押収中の現金五八万二、〇〇〇円中にその余の紙幣と共に混在し、そのうちどの紙幣がそれに当るかを特定できないのである。このように客体を個物として特定することができない場合においては、本来特定物を対象として行われるべき没収はこれを科するに由なきものであり、この場合、原判決のいうように通貨が高度の代替性を有することを理由として、金額が明らかであれば没収の客体としての個々の通貨を特定できなくてもなお没収を科することができると解することは、刑法一九条の解釈を誤つたものというべきである。してみれば、原判決が前記押収中の現金五八万二、〇〇〇円のうち現金一三万円をそれがいずれの紙幣に当るかが特定できないのに拘らず、これを同法一九条一項二号、二項を適用して被告人から没収したことは法令の適用を誤つたものであり、しかもその誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は控訴趣意に対する判断をまつまでもなく、すでにこの点において失当として破棄を免れない。

よつて、刑訴法三九七条、三八〇条に則り原判決を破棄することとし、同法四〇〇条但し書に従い被告事件について更に判決する。

原判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人の原判示所為は刑法一八六条二項に該当するところ、被告人には原判示の前科があるので、同法五六条一項、五七条により再犯の加重をし、被告人の経歴、前科、特に、被告人が元石崎一家の代貸人山崎和夫の跡目を相続し居住地の君津郡天羽町一円を縄張りとする博徒の親分であり、本件もその縄張の勢威を示すために行つたもので、賭客も被告人が積極的に勧誘し賭博に招いたもので、賭場の開設、賭具の用意等も被告人が自らこれに当つたこと等の情状を考え、被告人をその処断刑期の範囲内で懲役八月に処し、押収中の盆布一枚(原審昭和四五年押第三号の一)、毛布二枚(同号の二及び三)、花札二八八枚(同号の四及び五)、花札空箱三個(同号の六)、畳鋲三八本(同号の一四)、パン券(替銭札)五九個(同号の一五)、札うけ一個(同号の一六)は、被告人が原判示犯行に供したものであり、現金一八万五、〇〇〇円(同号の一九)は、被告人が右犯行により得たものであつて、いずれも被告人以外の者に属しないから、同法一九条一項二号、三号、二項により、いずれもこれを被告人から没収することとし、主文のとおり判決する。

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